2006年8月2日水曜日

地球観測って?その3

<お仕事>(地球観測って?その3)
今日は「水』についてです。水と空気はなくなってみないとありがたみがわからないと、最近はあまり言われなくなった様ですが、水の大切さは最近は多く叫ばれています。生活に密着している所では水道水ですよね。蛇口から出てくる水がある日突然真っ黒くなったら僕も慌てふためきます。人間の体は7割以上が水です。日本人一人当たりの生活用水使用量は300リットルを超えるそうです。

さて、地球観測で水はどうやって観測するの?または、何を観測しているの?と基本的な疑問が湧いてきます。その観測の幅は実は広くて多岐に渡ります。水は液体、気体、固体の状態で地球に存在し、さらに海、氷、川、土壌、空気、雲、地下の至る所に存在しています。グローバルに見た場合、これらの水の振る舞いを捉えて異常を検知することが基本となります。水は循環(海から蒸発して、雲になって、雨が降って、土壌にとけ込み、地下水となり、湧きだし、川となり、また海に戻って行く)していることが非常に重要な要素になっているため、その要所において循環が正しく行われているか?というのが観測の大題目になる訳です。このどこかの循環がおかしくなると洪水や干ばつなどの災害が地球のどこかで起こるのです。水に国境はないため、循環も巨視的に見ると世界規模なので一国では到底無理な訳です。また、水の質も当然観測するべき重要な要素です。しかし、ここでは前者の水の巨視的な循環の振る舞いに焦点を当てたいと思います。

いくつかの要素で見て行きます。

水の最大容量とも言える海ですが、観測要素は主に海面高度や海面温度などになります。衛星ではレーダーによる海面高度計が使われます。海上ではブイなどによる潮位計が使用されます。また、海面からの蒸発量を測定するには、海面温度の測定が重要になります。衛星では赤外放射計による海面温度分布、ブイによる定点温度測定などが行われます。

南北両極やグリーンランドの氷が最近溶け出しているというのはニュースでたまに流れます。この氷の量をつかむ事も重要です。なにしろ、南極の一角の氷が崩れたと言うと大した事がないように思いますが、その規模が違います。四国に匹敵する大きさの氷床が崩れ落ちる場合があるのです。しかも、氷は氷山の一角と言われる様に体積の9割は海の下に隠れています。それが溶けてしまうと海面上昇に大きく影響してくる訳です。また、陸上の氷河も最近あちこちで溶けています。これらの溶けた水は一体どこに消えて行っているのでしょうか?

気象庁の海洋診断表

川の水自体は地球上の水の量から言うと一割にも満たないのですが、人間生活に密着しているので当然重要です。最近の河川の氾濫の世界的な増加は目立っています。川の水観測は災害監視にもつながります。しかし、観測網としてはどちらかというと衛星というよりは地元の自治体や河川局などが行う事になるため、観測網の区分が違ってくる事になり、個々のデータはあるのですがデータの横のつながりに不安が出てきます。特に世界の河川の情報が一発でわかる様にはなっていません。

国土交通省の水情報国土データ管理センター(日本の河川情報)

土壌中の水の含有量がどの程度であるかはまだ正確な値が掴めていないので未知の分野です。いくつか研究成果が出ていますが、最近では衛星でも土壌の水分量が求められる様になってきました。しかし、地下水の含有量も含め地球規模での観測は非常に難しいと思われます。

UNEP/GRIDの世界の土壌水分保持容量

空気中の水分量はある意味、土壌よりも簡単です。中学校の理科で習った通り、空気中に含まれる水蒸気の量の最大値は温度と気圧で決まるからです。実際は、もっと複雑で他の要素がからまってきますが、それらをできるだけ詳細に考慮して観測すれば空気中の水分量はおおよそ把握できてきます。しかし、理論はわかっていてもまだ体系的な結果は出ていません。観測の必要性はまだ残されています。

NASAのGHCCデータセンターによる世界の水蒸気量マップ

以上の様にリンクの情報一つとっても結構理解するのが難しく、地球の水を観測すると言っても、観測の要素が非常に複雑であると同時に、観測の手段も入念な調整と体系的なものが必要になってきます。衛星をどの程度の頻度で観測すればいいのか?飛行機をどこにどの程度飛ばして観測すればいいのか?船やブイをどこに配置してどの程度の頻度でデータを取れば良いのか?土壌はどの位の深さまで観測すればいいのか?各国のどの機関がどのようにどこを観測するのか?また、得られたデータをどのように処理したらいいのか?どのように他のデータと総合的に利用したらいいのか?こうした各要素の綿密な調整が水の観測の場合重要になってきます。
また、リンクの情報を見てもらえればわかりますが、各観測要素の情報源はそれぞれ別な組織が行っている活動です。これらの別々の組織や人が行っている活動をどう関連づけていくのかは我々人間世界の調整事項として、今まではあまり行われなかった努力ですが、最近流行の Interoperability(相互運用)の概念に基づきその垣根を取り払わねばなりません。
WMOでは昔から国際協力によってこうした努力をしてきていますが、まだまだ十分とは言えないと思います。今後、我が部署がさらなる努力に拍車をかけていくことが望まれています。

次回は「農業」について紹介したいと思います。

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